皆さんも良くご存知なようにディズニーはアニメーション映画でアナと雪の女王、塔の上のラプンツェル、モアナと伝説の海、シュガーラッシュ、トイストーリーなどをはじめ、ここに書ききれない数々のヒット映画を次々と生み出しています。ヒット作を生み出す秘密はなにでしょうか?特定の天才的な脚本家や監督がいるのでしょうか?原作に恵まれているのでしょうか?
それぞれの作品の監督を調べてみても特定の人がヒット作を作り出しているのではないことが解ります。例えばアナと雪の女王の監督はクリス・バックとジェニファー・リー、塔の上のラプンツェルの監督はネイサン・グレノとバイロン・ハワード、モアナと海の伝説はロン・クレメンツとジョン・マスカー、シュガーラッシュはリッチ・ムーアというように特定の監督だけがヒット作を生み出しているわけではありません。
これを可能にしたのは何なのか?ディズニー関係者へヒアリングをしたり書籍(ピクサー流創造するちから)で調べたところ、ピクサーアニメーション/ディズニーアニメーションの社長を2019年まで務めていたエド・キャットムルやジョン・ラセターが中心となってクオリティの高い作品を生む再現性を高める仕組みを作り上げていたことがわかりました。それはブレイントラストという作品のレビュー会で、数カ月に一度制作中の作品を担当している監督や脚本家だけでなくピクサー内で他の作品を担当している監督や脚本家が一同に会して一つの作品に集中してそれをよりよくするために立場や上下関係など関係なく本音で妥協なく率直な意見を出し合いディスカッションする機会を持ちます。そこで出た意見を採用するかどうかはその作品を担当する監督や脚本家にゆだねられるのですが、自分と同レベルの監督や脚本家から率直な意見を聞く機会が与えられ、それにより少数の人の独断だけではなく多くの人の目や心からみてもよりクオリティが高く感動をもたらす作品に仕上げています。エド・キャットムルによれブレイントラストにかけられる前の作品はどの作品も目に当てられないほどの駄作だそうです。
作品のレビュー会というと簡単ではないか、どの映画会社でもやっているはずだと思う人も多いのではないかと思いますが、そのレビュー会に参加するのは、それぞれ一流の監督や脚本家で人の意見を受け入れなくてもレベルの高い作品を作りだせる能力を持った人たちの集まりです。そういう人達の集まりであれば普通はエゴや自信過剰が先にたって、どんなにいいアイデアが同僚から提供されてもなかなか受け入れられないし、いいアイデア自体を提供したくないライバルだと思っている監督や脚本家が多くいてもおかしくありません。また人の制作している作品に率直な意見を言うのは簡単ではありません。普通はカモフラージュされた直接的ではない表現になりちゃんと伝わらない表現で終わってしまうのではないでしょうか。このブレイントラストというレビュー会を機能させているのは日頃から人々のコラボレーションと率直な意見の交換によってよりクレイティブで高い品質の作品が生まれることを信じ妥協なく意見交換しているからです。
ブレイントラストという仕組みを知るまでは一握りの天才監督がアニメーション映画を1人でリードして魂を込めて作り上げるものだと思っていました。実際、スタジオジブリの場合は宮崎駿、高畑勲という両天才クリエーターがいて、それぞれが魂をこめた作品を年単位で集中して取り組んだ結果、すばらしい作品を世に送り出してきました。ジブリの作品を調べてみるとほとんどが脚本、監督ともに宮崎駿、高畑勲氏が担当されています。例えば風の谷のナウシカは原作、脚本、監督は宮崎駿、天空の城ラピュタは原作、脚本、監督は宮崎駿、となりのトトロは原作、脚本、監督は宮崎駿、平成狸合戦ぽんぽこは原作、脚本、監督は高畑勲というのが一部の例です。それ以外にも多くの大ヒット作がありそのほとんどでこのお二人が脚本と監督を担当されています。私もジブリの作品は大好きですし、両巨匠は天才でだれにもまねができないのだと思っています。ジブリが高いクオリティの作品を生み出す根源は2人の人に完全に依存していました。ディズニーとは対極の方法で作品を完成させてきました。
ディズニーもジョン・ラセターのような天才的なクリエーターはいましたがブレイントラストという仕組みによって一つの作品のクオリティを上げる効果だけでなく未来のアニメ監督の育成にもつなげています。ピクサーとディズニーアニメーションが目指していたのはその時のリーダーたちが抜けたあとで永続的につづいていくスタジオを作り上げることでした。多くの監督がヒット作を生み出す現状を見るとその理想が実現出来ているのではないでしょうか。
アニメショーン映画を作るという最もクリエティブな領域の仕事の一つにも再現性と永続性を実現するための仕組みが構築できるのですからビジネス領域でイノベーションを創出する確率を高め、再現性を高める仕組みが各社各様の仕組みがあるべきだと思います。アマゾンの場合ではその仕組みの一つがFR/FAQになります。PR/FAQのフォーマットで提案された新規事業に対して立場は関係なく妥協なく率直な意見交換を行います。その結果、その新規事業を本当に顧客が必要としているのか?顧客が心から欲するものなのか?を徹底的に議論します。ディズニーのブレイントラストとアマゾンのPR/FAQは妥協なく率直な意見を交換し、顧客が欲する高いクオリティのものに仕上げていくということで大変共通点が多いものだと思っています。これがアマゾンがイノベーションを生み出し続ける一つの秘密です。PR/FAQについては次回のブログで紹介します。