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日経ビジネス電子版 9回連載 「新規事業はアマゾンに学べ 」

日経ビジネス電子版にて「新規事業はアマゾンに学べ」というテーマで全9回の連載をさせていただきました。

第4回と第5回は早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授との対談をさせていただきました。

連載記事のリンク

第9回

新規事業はアマゾンに学べソニー井深氏が発した「パラダイムシフト」とアマゾンメカニズム2022.04.15 ソニー創業者・井深大氏の1992年の言葉に、GAFAの本質が予言されていた。分析するのは、アマゾンジャパンの元幹部で、ソニー技術者からキャリ…

第8回

新規事業はアマゾンに学べアマゾンとイノベーションの歴史、日本の敗因と新たなチャンス2022.01.14 日本企業の栄枯盛衰の裏には、18世紀に遡る「イノベーション・プラットフォーム」の歴史的な大波がある。破壊的イノベーションをもたらす企業への集…

第7回

新規事業はアマゾンに学べアマゾンの警告。なぜ日本企業の「長寿」が不吉なのか?2022.01.05 長寿企業の多さを誇る日本。しかし、本当に喜んでいいのか? 上場企業の寿命が、米国では40~50年の間に3分の1になった一方、日本では7年間で…

第6回

新規事業はアマゾンに学べアマゾン社員を挑戦に駆り立てる「“1勝9敗”を許す仕組み」2021.12.27 新規事業の失敗が、担当者のキャリアの「汚点」となってしまう――。多くの会社員が感じる不条理を、アマゾンは仕組みで解決している。大失敗に終わっ…

第5回

新規事業はアマゾンに学べアマゾンの破壊力の源泉は「共食い」を恐れない企業文化にある2021.12.22 「聖域化した基幹事業の権威が、新しい芽を潰す」と指摘する、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授。解決のヒントがアマゾンに? ソニー創業者…

第4回

新規事業はアマゾンに学べアマゾンと日本の製造業には意外な共通点がある2021.12.17 「日本企業が学ぶべきは、グーグルよりはアマゾン」。早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授はこう指摘する。イノベーションを重視しつつ、物流と…

第3回

新規事業はアマゾンに学べアマゾンの企画書 もしも「空飛ぶクルマ」を発売するならば?2021.12.10 アマゾン独自の企画書のフォーマット「PR/FAQ」。アマゾンの「連続起業力」を支える強力なツールだが、社外に公開されることはほぼない。元幹部…

第2回

新規事業はアマゾンに学べソニーの技術者として抱いた疑問、答えはアマゾンにあった2021.12.02 なぜイノベーションは失われたのか。ソニー技術者として抱いた疑問の答えがアマゾンにあった。シリアルアントレプレナーが共通して持つ「3~5年後の…

第1回

新規事業はアマゾンに学べアマゾンのすごみは「小売業の破壊力」でなく「連続起業力」にある2021.11.25 アマゾンという企業に、どんなイメージを持っているか? 本当の凄みは「組織的にイノベーションを起こす仕組みを持っていること」にある。新規事業の…

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アマゾン PR/FAQ その2

アマゾンではPR/FAQは約3ケ月から5年後の実現したい全てのイノベーション提案のために使います。プレスリリースとはいっても社外には開示されない社内用の文章なので実際のプレスリリースよりも本音で書くことが出来ます。PR/FAQの構成は以下のようになります。

  • タイトル(新商品、サービスの名前の入ったタイトル)
  • 新聞の名前(仮想の新聞の名前を書きます。)
  • 日付(商品、サービスを市場導入したい未来の日付)
  • サブタイトル(新商品やサービスの顧客へのベネフィットが端的に解るような記述。)
  • 新商品や新サービスの目的・内容や解決する課題
  • 新商品と新サービスがどのよう働くかの説明
  • 顧客の体験証言(何がいままでのサービスや商品と違うと思うか、素晴らしい事はどこかの使用体験談を顧客の気持ちになって記述する。2~3人の顧客の証言を記述する。)
  • 顧客以外のパートナーの証言(商品提供業者やその他の関連パートナーからのベネフィットなどの証言を記述する。)
  • アマゾンの担当部署のリーダーからのコメント(顧客の課題やニーズの何を解決するために作られたかを記述する。)

上記の順番はサブタイトル以降については入れ替えても問題ありません。またサブタイトルと顧客以外のパートナーからの証言はオプショナルです。内容的に必須の内容は想定する顧客へのメリットを臨場感を持って伝えるための顧客の体験証言、アマゾンリーダーからのどんな課題解決のために創ったかを伝えるコメント、いつを市場導入のターゲット時期としているか、新サービスや商品の説明です。

このPR/FAQをミーティングの参加者が読み込み、本当に顧客にとってベネフィットがあるか?もっと改善の余地はないか?大きなニーズがあるか?について徹底的に率直な意見を出し合います。そして最後に本当にこのアイデアは顧客が必要とするのか?(Do customers love this?)という質問に自分たちで回答を出します。アマゾンのPR/FAQは社内ドキュメントですので実例は外部にでていません。私が皆さまにより理解していただけるように仮想PR/FAQをつくって次回のブログで紹介します。

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ディスニーのブレイントラストとアマゾンのPR/FAQ

皆さんも良くご存知なようにディズニーはアニメーション映画でアナと雪の女王、塔の上のラプンツェル、モアナと伝説の海、シュガーラッシュ、トイストーリーなどをはじめ、ここに書ききれない数々のヒット映画を次々と生み出しています。ヒット作を生み出す秘密はなにでしょうか?特定の天才的な脚本家や監督がいるのでしょうか?原作に恵まれているのでしょうか?

それぞれの作品の監督を調べてみても特定の人がヒット作を作り出しているのではないことが解ります。例えばアナと雪の女王の監督はクリス・バックとジェニファー・リー、塔の上のラプンツェルの監督はネイサン・グレノとバイロン・ハワード、モアナと海の伝説はロン・クレメンツとジョン・マスカー、シュガーラッシュはリッチ・ムーアというように特定の監督だけがヒット作を生み出しているわけではありません。

これを可能にしたのは何なのか?ディズニー関係者へヒアリングをしたり書籍(ピクサー流創造するちから)で調べたところ、ピクサーアニメーション/ディズニーアニメーションの社長を2019年まで務めていたエド・キャットムルやジョン・ラセターが中心となってクオリティの高い作品を生む再現性を高める仕組みを作り上げていたことがわかりました。それはブレイントラストという作品のレビュー会で、数カ月に一度制作中の作品を担当している監督や脚本家だけでなくピクサー内で他の作品を担当している監督や脚本家が一同に会して一つの作品に集中してそれをよりよくするために立場や上下関係など関係なく本音で妥協なく率直な意見を出し合いディスカッションする機会を持ちます。そこで出た意見を採用するかどうかはその作品を担当する監督や脚本家にゆだねられるのですが、自分と同レベルの監督や脚本家から率直な意見を聞く機会が与えられ、それにより少数の人の独断だけではなく多くの人の目や心からみてもよりクオリティが高く感動をもたらす作品に仕上げています。エド・キャットムルによれブレイントラストにかけられる前の作品はどの作品も目に当てられないほどの駄作だそうです。

作品のレビュー会というと簡単ではないか、どの映画会社でもやっているはずだと思う人も多いのではないかと思いますが、そのレビュー会に参加するのは、それぞれ一流の監督や脚本家で人の意見を受け入れなくてもレベルの高い作品を作りだせる能力を持った人たちの集まりです。そういう人達の集まりであれば普通はエゴや自信過剰が先にたって、どんなにいいアイデアが同僚から提供されてもなかなか受け入れられないし、いいアイデア自体を提供したくないライバルだと思っている監督や脚本家が多くいてもおかしくありません。また人の制作している作品に率直な意見を言うのは簡単ではありません。普通はカモフラージュされた直接的ではない表現になりちゃんと伝わらない表現で終わってしまうのではないでしょうか。このブレイントラストというレビュー会を機能させているのは日頃から人々のコラボレーションと率直な意見の交換によってよりクレイティブで高い品質の作品が生まれることを信じ妥協なく意見交換しているからです。

ブレイントラストという仕組みを知るまでは一握りの天才監督がアニメーション映画を1人でリードして魂を込めて作り上げるものだと思っていました。実際、スタジオジブリの場合は宮崎駿、高畑勲という両天才クリエーターがいて、それぞれが魂をこめた作品を年単位で集中して取り組んだ結果、すばらしい作品を世に送り出してきました。ジブリの作品を調べてみるとほとんどが脚本、監督ともに宮崎駿、高畑勲氏が担当されています。例えば風の谷のナウシカは原作、脚本、監督は宮崎駿、天空の城ラピュタは原作、脚本、監督は宮崎駿、となりのトトロは原作、脚本、監督は宮崎駿、平成狸合戦ぽんぽこは原作、脚本、監督は高畑勲というのが一部の例です。それ以外にも多くの大ヒット作がありそのほとんどでこのお二人が脚本と監督を担当されています。私もジブリの作品は大好きですし、両巨匠は天才でだれにもまねができないのだと思っています。ジブリが高いクオリティの作品を生み出す根源は2人の人に完全に依存していました。ディズニーとは対極の方法で作品を完成させてきました。


ディズニーもジョン・ラセターのような天才的なクリエーターはいましたがブレイントラストという仕組みによって一つの作品のクオリティを上げる効果だけでなく未来のアニメ監督の育成にもつなげています。ピクサーとディズニーアニメーションが目指していたのはその時のリーダーたちが抜けたあとで永続的につづいていくスタジオを作り上げることでした。多くの監督がヒット作を生み出す現状を見るとその理想が実現出来ているのではないでしょうか。

アニメショーン映画を作るという最もクリエティブな領域の仕事の一つにも再現性と永続性を実現するための仕組みが構築できるのですからビジネス領域でイノベーションを創出する確率を高め、再現性を高める仕組みが各社各様の仕組みがあるべきだと思います。アマゾンの場合ではその仕組みの一つがFR/FAQになります。PR/FAQのフォーマットで提案された新規事業に対して立場は関係なく妥協なく率直な意見交換を行います。その結果、その新規事業を本当に顧客が必要としているのか?顧客が心から欲するものなのか?を徹底的に議論します。ディズニーのブレイントラストとアマゾンのPR/FAQは妥協なく率直な意見を交換し、顧客が欲する高いクオリティのものに仕上げていくということで大変共通点が多いものだと思っています。これがアマゾンがイノベーションを生み出し続ける一つの秘密です。PR/FAQについては次回のブログで紹介します。

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innovation PR/FAQ アマゾン 新規事業 谷敏行

アマゾン PR/FAQ その1

アマゾンでは新たなイノベーションを社内で提案する際にはPR/FAQというフォーマットが必ず使われます。皆さまが体験されているアマゾンの新商品や新サービスは全てこのPR/FAQから始まっています。私もアマゾン在職中には2つの新サービスのPR/FAQを使って提案して、それを実現させた経験があります。

PRはプレスリリースの略です。新製品や新サービスが市場導入される際にその商品やサービスについての機能、値段、使用利点、これまでの商品やサービスとの違いなどについてのリリース文章が発売開始した会社からマスメディアや自社のウエブサイト上でリリースされるのは日常よく目にされると思います。アマゾンではこれから開発する商品やサービスをあたかも市場導入したかと仮定して数年先の未来のプレスリリースを書くのです。新規イノベーションを提案する日付が2021年5月1日でその新サービスや商品の市場導入を3年後に想定しているなら、2024年5月1日の日付でプレスリリースを書きます。FAQはFrequently Asked Questionsの略で想定質問・回答集という意味になります。

アマゾンではWorking Bacwardsといって技術や製品を出発点とした視点ではなく顧客を出発点とした視点で新たなイノベーションを生み出します。PR/FAQを使ってイノベーションのアイデアをまとめることによって、顧客中心に考えているかを明白にすることができます。売上や利益成長を実現するというのは結果であって出発点は顧客が必要とするものを自分たちがどうすれば提供できるかということから常に考えます。これは多くの方々は当たり前な事だと言われると思いますが、企業の中でその当たり前な事を全社員が仕組みとして実現・体現していくのは難しいのです。

PR/FAQを使ってイノベーションの提案をすることにより、顧客はだれなのか?本当にターゲットとする顧客が喜ぶのか?その市場は自社が他社よりも良いサービス・商品を提供出来るのか?何を創り上げればいいのか?について顧客視点で整理し、率直な意見交換をすることが出来ます。そのフィードバックを元にPR/FAQを改良して仕上げていきます。その過程で本当に顧客が必要とするものは何でそれを本当に必要とする顧客が多くいるかどうか?というのが研ぎ澄まされていき、最終的にはマネジメントチームに提案し、そのイノベーションのアイデアに投資して推進していくかどうかが判断されます。投資が承認されたPR/FAQもそれで完成という訳ではありません。イノベーションを生み出す際に商品やサービスの試作などの過程をとうして初めめの仮説と異なっているようなことが発見されることは多々あります。仕様をこのように修正すればもっと顧客が喜ぶものができるのではないか。想定していた顧客層というのが少し良く理解出来ていなかったので、ターゲット顧客を修正する必要が出てくる。というようなことが頻繁にあります。そのような場合にPR/FAQにもどって修正し進化させていきます。

アマゾンで利益の稼ぎ頭となっているAWSのPR/FAQもAndy Jassyが書き上げ何度も修正を重ねて最終的に投資が認められ今のような大きな事業にまで成長させています。Andy JassyはJeff BezosがCEOを退任後の時期CEOに指名されている人です。次回のブログではPR/FAQの書き方について紹介します。